さん、これからミゲロさんのお店に行くけど一緒に行きませんか?」


昼食を取り終え一度部屋に戻ってきた後、パンネロから外出のお誘いを受ける。
シュトラールの整備のため、ここ三日間ラバナスタに停泊しているのだ。


その間の日課になったのがこの掛け声。


「剣の稽古がまだだからそれが終ったら行くわ」

「うん、じゃあまた後で。待ってますね」

「ええ」


パンネロが部屋を出た後、は壁に立てかけてあった剣を腰に携えバッシュのいる方角に振り返る。

「もしよかったら一緒にいきませんか?」

「そうだな、同行させてもらおう」

これもここ最近の日課となっている。
この時間帯になるとがバッシュを誘い剣術に勤しんでいるのだ。


二人の関係が成立する前はバルフレアもそれを茶化したものだが、
今となっては誰も気にもとめない程当たり前になっていた。




you know







ギーザ草原に足を運び稽古を終えるとは倒れこむように岩場の日影に腰を下ろした。

肩で息をしながら頬に張り付いた髪を拭い、後ろで一纏めにし上げていた髪をもう一度結いなおす。
休憩の度にするその仕草をバッシュは見るたびに器用なものだと思いながら彼女を見ていた。


「ぅー、やっぱりバッシュは強いわ」

「君の太刀筋も大分良くなってきている。最初の頃より随分と上達しているぞ」

「それは、バッシュに教えてもらっているもの。上達しなかったら、怒られてしまうでしょう?」

「怒るように見えるか」

「ううん、残念だけど稽古の時は見えないの。それにバッシュの口癖は「すまない」なんでしょ?
 すぐに謝るからだってヴァンは言ってたわ」

「そういう訳ではないが」

「口癖なんて言い方ごめんなさい。
 でも自分の非を認めて謝る事が出来るって素敵な事だなって思って、尊敬してるのよバッシュの事」

「俺はそれ程立派な人間ではないぞ・・」

「何だかそれ悔しい言い方。あなたの事目標にしているのに。
 こうなったら貴方より強くなって今の言葉を撤回させてみせるわ」

「頼もしいな」



楽しみにしていてとはクスリと笑った。

持ってきていた水を口にしながら、木の陰を見て今の時間帯を計算したのだろう。
剣を鞘にしまいゆっくりと立ち上がる。

「もうそろそろ行きますね、パンネロが待ってるから」

「昼間の約束か。、俺も一緒に行っていいか?」

「ええ、もちろん。あ、でも大変な事になるかもしれませんよ?」

「??」




大変な事とは何だろうか、と考えながらミゲロのショップに足を踏み入れた。

そして忙しそうにしているパンネロを見つけ声をかけるとも手馴れた様子で手伝いをし始める。
最近二人の遅い理由はこれだったのか。

「忙しそうだな」

「今日は余計に混んでるみたい」

「ならば俺は帰ったほうがよさそうだ」

「え、帰っちゃうんですか?」

「ああ、俺が居ては邪魔だろう」

「そういうことじゃなくて、バッシュが居てく――?」

「?」

自分を見ていたの目線が会話の途中で下へと向けられた。
つられるように自分もその後を辿ると、彼女の足に小さい女の子がしっかりと抱きついていた。


「ママ、おかえりなしゃぃ」

「あ!ただいま、いい子にしてた?」

そう口にしたのは他でもなく目の前の
ゆっくりと腰をおろしその女の子を抱き上げている・・・状況が把握出来ずただ呆然とするしかなかった。




「・・・子供・・・・が?」


「ええ、子供ですよ」

見るからに柔らかそうなそのほっぺには小さくキスをして優しく頭を撫でている。
口が少し開いたまま塞がらずにそこから漏れた一言は、何を言いたかったのだろうか。

「―その・・・・」

後が続かず言葉が詰まる。

この状況で彼女に何を聞こうとしているのか―
頭を巡る思考はあまりにも現実味を帯びたものばかりで。
今の状況でさえ飲み込めずに動揺しているのに。

もしや、『大変な事』とはこれの事・・・・・。

「バッシュも抱っこする?」

「・・・いや、、その」

に抱えられた女の子がその小さな手を無邪気に伸ばしてくる。
思慕の情が無ければ、記憶の隅に流れていった出来事だったろう。

しかし、それを目の当たりにした自分はそこに居るのが、
彼女でなければと都合よく考えたりする程、自分にとってショックの大きい難事となった。

「ママ、ママ」

「はは、今度はバッシュがお母さん?」

「?―何を言っている母親は」

君だろう。
そう告げようとするその前に、女の子がバッシュの腕をつかみママと連呼している。


「じゃ、母親交代。この子最近言葉を覚えたばかりだから誰にでもそうやって言うの」

「な・っ・・・」

「預かっている子供だから、優しく面倒見てくださいね」


女の子をバッシュに預けるとはミゲロの手伝いをし始めた。
放置されたバッシュはまたも唖然とし、二人の仕事が終わるまで結局その子の面倒を見ることとなった。








それからしばらくして、静かになった店の外で待っていた彼の元に駆け寄りは不安そうに顔を窺う。


「バッシュ、ごめんなさい。大丈夫??」

「ああ、大人しいものだ」

「寝ちゃったのね。あ、ちょっと動かないで」


子供を支えていた腕にの手が添えられポケットから取り出した布でそっと女の子の口元を拭いている。


「もうすぐでその子の親迎えに来るそうですよ」


店から出てきたパンネロがそう告げると間もなくしてこの場所に両親が現れた。
それを見送った後、三人で砂海亭に向かって歩きはじめる。


「お疲れ様でしたさん、それにバッシュさんも。あと、これミゲロさんが二人にって」


渡された袋には多様な種類のアイテムが入っていて思わず顔がほころんでしまった。


「あ、でもこれって、どうして?」

「お手伝いしてもらったからって」

「俺は何もしていないからな、君が貰うといい」

「バッシュだって子守りしたじゃない」

「それは、手伝いの内にはいらないだろう」


お互い譲り合いの会話に突入しパンネロが何となく話しづらそうにしていると前方からヴァンの声が耳に届いた。




「おーい、パンネロ。今からダラン爺のとこ行くんだけど、一緒に来てくれないか?」

「あら、デートのお誘いみたいね。いってっしゃい」

「そんなんじゃないです!!」

「はいはい、じゃあ私達は先に行ってるわね」


頬を赤くし膨らませたパンネロはヴァンの元へ走っていく。
そして達とヴァンの中間の距離まで行くと突然こっちを向いて何やら叫んでいるようだ。

「あの、思ったんですけど〜!」

「なぁーに?」

「お店の前に居た時の二人、何だか家族みたいでしたよ〜〜!!」


「!!!!????」




さっきの腹いせとばかりに口にした言葉。
パンネロが放ったそのトラップにかかり同時に互いの足が停止し身動きが取れなくなる。

自分の顔は間違いなく赤くなっているだろう―

それでも否定する言葉を口にしながらこの状況を打開しようと相手に送った目線は
その事態に拍車をかけただけだった。



「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」



沈む夕日に照らされてより一層赤く染まっていった互いの頬。
恥ずかしさや嬉しさで口がきけなくなって代わりに繋がる指先―